気持ちを狂わすものの正体

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長老の聞き書き、校正2回目のこと。
「瀬戸芸は、若いもんの気持ちを狂わすと思うな…」と、長老が言った。
魔物のような力が作用し、若い人の金銭感覚を狂わせ、まっとうで誠実な人生を狂わせるような映像を私は想像した。そして、こんな風に言ってくれる大人は珍しいと、感激した。
世の中を見据えて判断できる大人は、もう少ない。
久しぶりに、長老のあるべき姿の言葉を聞いた。

1/4、長老はさっぱりとした笑顔で迎え入れてくれた。
「洗濯を干して、床にワックスをかけて、やれやれと思うとったところです」
新年だから晴れの装いなのだろう。明るい色のシャツとVネックのカーディガンがよく似合う。
人と会う時はきちんとした服装で、襟元はボタンを留めていることが多い。
昭和3年生まれの、新しい思想を持つ紳士。
「よそのもんには言えん」と、豊島事件の闘いの中でも語られることのない部分を秘めている人だ。
その長老が私との距離を正確に縮めてくれている。

瀬戸内国際芸術祭2016、豊島は前回2013年を上回る観光客でごったかえした。
食事のできる店が増え、民泊も定着した。
観光は瀬戸芸に舵を切った。
にぎわいを歓迎する人々は、土地に縁をもたせたアート作品を賞賛した。
「いつまでも産廃、産廃と言っていたら食えん」と、長老に明言する人がいたと聞く。
長老、気持ちを狂わされるのは若い人に限ったことではありませんね。
村の長のような年配者が少なくなりました。

「豊島の生きる道は一次産業じゃと思うな」
長老は常々これからの日本を、これからの豊島を考えては憂いている。
一代の利益享受でなく、これからの子どもたちに残すふるさとを思い描いて、豊島事件を闘ってきた。
瀬戸芸は何を残すのだろうか。
廃材となった作品のほかになにがあるだろう、現代の大人にどこまで想像できるだろうか。