早生の栗 

8月下旬、豊島の長老のところでは栗のイガが割れた。べっとりとまとわりつく熱帯が、台風のおかけで一息つける気温に下がると同時に、早生の栗が落ち出した。

池のほとりにある1本が、毎年夏の終わりを告げる。

長老の屋敷に移り住んだ例の「番人」が、栗をごっそり持ってきてくれた。「うわー、はやい!」「栗ご飯が食べたい!」「栗拾いしたい」と好き勝手な感想が出る中、新聞に包んだイガ栗が出てきた。緑色のイガは、はしりそのもだ。ゆでた栗に包丁を入れ、すぐ食べられるように小さいスプーンも入っている。生の栗は2キロぐらいありそうだ。

縁あって春先から長老の屋敷に移り住んだ番人は、毎週、高松へ帰ってくる。夏までは果実シロップやジャムを夜なべ仕事で作り、「味をみてください。ぜひ、感想を聞かせて」と瓶を何本も置いていった。

豊島の長老が丹精した土地に、甘夏、レモン、ブルーベリーなどの果樹が育つ。長老の記憶にある子どものころ、すでに柿は植えてあったという。とうてい家族だけでは食べきれないほどの量がとれ、果樹の種類も数多い。近年新しいのは、オリーブの木だ。

長老の屋敷から西側のところは、豊島事件の現場一帯に含まれる。

「家が近いから、豊島事件に関わったちゅうことはないな。わしが副議長をやるなら議長をやるという、当時の議長の要請で産廃にかかわることになったの」

豊島事件は有害産業廃棄物が不法投棄され、豊島住民が完全撤去と県の謝罪を求めてたたかった長い年月を示す。長老の半生は、このたたかいに費やされた。今、島に暮らす80代以上の人たちは「豊かなふる里わが手で守る」を体現した人たちだ。

屋敷の西側には竹林が広がり、虫の鳴き声と葉ずれの音が静かに波打つ。ここから長老は、日に何度も産廃現場や寄り合いに出かけて行った。