ファンを増やすスタートアップ

瀬戸内海に浮かぶ人口200人の島に、私設図書館がある。始まりは、手押し車に自分の本を積んた移動図書館と聞く。東京のFM局j-waveで紹介された時は、青い空と海に浮かぶ小さな島のラジオドラマを聞いているようでステキだった。

私が初めて行ったのは、曇り空に寒さが戻った3月。2016瀬戸内国際芸術祭の春会期を前に、島民に先行してアート施設を開放している日だった。ガラスの引き戸と張り替えられた床の木肌が温かく明るい。ずっと前からそこにあったように溶け込む、集落の静かな男木島図書館。

クラウドファンディングで目標額を上回る応援を得たことを聞いていた。「5000円でこんなにもらっちゃっていいのかな」と支援した人が、茶封筒を開けて小冊子やステッカーを見せてくれたことがある。きちんとロゴを掲げ、周りが応援したくなる誠実な姿勢を感じた。

 

クラウドファンディングはずいぶん手軽になった。東日本大震災後のミュージックセキュリティーズでは目標額が1000万円など、企業再建を呼び掛ける理由は明確、直接支援という達成感もあった。

そのあたりからか、クラウドファンディングがあちこちで始まった。2011年頃は運用主体であったように思う。そこからファンを集める仕組みは出資という形ですそ野を広げ、趣味の域にも「クラウドファンディング」という冠がつく。

起案者の熱い思いに手を添えて、道筋だててわかりやすくプロジェクト化するところに手数料が発生する。達成額の数%が手数料ということもある。手数料という名目の掲載料や仲介料がかかってくる。

そして、明確に手数料○円と併記して、総額を提示しているケースが出現。

プロジェクトは支援したくなるものか、その金額は妥当か、将来性はあるか、リターンはどこにあるか、起案の斜め読みで目標額の達成度も見えてくる。

クラウドファンディングで資金調達を目標にするのではなく、自分をPRすることが目的のケースもある。

手数料を明記した案件はこうだ。古い建材物が取り壊されるのを前に、価値のあるものだから保存して地域活性に生かしたい。ついてはインフラ整備のための資金を集めたいという。その後は、貸しギャラリーやマルシェ、観光地化にむけたいという構想だ。起案者が、プロジェクトに至る経緯を説明する箇所は、協力者の詳細な履歴と自分との関係が大半を占める。そして、資金を得たあかつきには、どうするかという肝心の部分が夢物語。夢に目新しさはなくてもいい。ここまでがんばってきました、次にこうしたいのです、そのためにあとこれが足りないのです、という具体的で堅実ななステップを示してくれるなら、起案者の誠意に共感する。

先述の男木島図書館が、まさに共感型の起案と言える。メディア各社が取材にくるのも、クラウドファンディングの内容を読んでいるからにちがいない。ファンを増やすスタートアップなのか、依存から始まるスタートアップなのか、主体性と自主運営の規模が問われる。